同志少女よ、敵を撃て

書籍

書 籍:同志少女よ、敵を撃て
著 者:逢坂冬馬
出版社:早川書房
発行日:2021年11月25日 発行(2022年4月10日 19版を購入)

いつも初版(第1刷)を意識して書籍を購入していますが、今回は大幅に出遅れました。
ただ、映画化される前に購入することができて良かったです。
書籍の場合、イラストがないかぎり、自分の頭の中で登場人物像をイメージします。
もし映画化されたら、登場人物は映画の出演者のイメージで固定されてしまいます。
外国人が執筆した物語を日本人が訳すのではなく、日本人が独ソ戦の物語を執筆すること自体が珍しいと思いました。

時代背景は、第二次世界大戦独ソ戦です。
舞台は、スターリングラードの攻防戦の前後あたりです。
主人公“セラフィマ”は、ソ連狙撃兵です。
狙撃兵が主人公なので、現場の戦闘の様子がとても生々しく描写されています。
プロローグの前に、地図と登場人物が記されているので、途中で「この人、誰だっけ?」ということが少なかったです。

【目次】
プロローグ
第一章 イワノフスカヤ村
第二章 魔女の巣
第三章 ウラヌス作戦
第四章 ヴォルガの向こうに我らの土地なし
第五章 決戦に向かう日々
第六章 要塞都市ケーニヒスベルク
エピローグ

「遺体を焼くとこういう臭いがするんです。敵も味方も、埋葬する暇がなくて」
「味方の遺体も焼くんですか」ママが意外そうに尋ねた。
「仕方ないのです。あまりにも数が多すぎて時間も人手も足りません。放っておくと腐敗してもっと陰惨なことになります。それに病気を招きかねませんから。こういう事態に直面したとき、唯一取れる処置が素早い焼却なんです」

上述した内容は、廃墟の街をセラフィマたちが歩いて見た光景です。
二次被害を防ぐために素早く焼却する必要があることを痛感しました。

「兵士たちは恐怖も喜びも、同じ経験を共有することで仲間となるんだ。……部隊で女を犯そうとなったときに、それは戦争犯罪だと言う奴がいれば間違いなくつまはじきにされる。(中略)裏を返して言えば、集団で女を犯すことは部隊の仲間意識を高めて、その体験を共有した連中の同志的結束を強める」
「ドイツ人にとってもこの現象にはある種の需要がある」
「需要? 女が犯されることにどんな需要があるというの」
「被害者意識を持つことができる。自分たちもひどい目に遭ったんだという物語の中で女性への乱暴はとても分かりやすい。ある意味で事情が整っている」
「どんな理由があろうと暴行魔は悪魔よ。絶対にしてはならないことは確かにある。戦争という特殊な環境を利用し、少数の『社会』がそれをねじ曲げているだけでしょう」

上述した内容は、セラフィマと幼なじみとの会話の一部です。
ソ連は、参戦国の中で、女性の兵士が従軍した国です。
女性の兵士が主人公なので、女性の目線で戦闘の現場や戦争犯罪について書かれていることが現実的な感じがしました。
戦争に関する書籍をほかにも読みましたが、それにも「戦利品」と「女」という言葉が一対になって出てきます。
戦争では、つねに女性ならではの惨劇があります。
その現状が、とても悲しい。

爆発した自走砲から乗組員が一人転がり落ちてきた。彼以外の搭乗兵は即死したのだと悟った。
即死を免れたその兵士は、全身を炎で焼かれていた。
燃料にまみれて焼かれると地獄だ―。自走砲兵であるミハイルの言葉を思い出した。
「殺してくれ!」
見知らぬ彼が叫んだ。セラフィマは銃を構えた。
何日も苦しんでから死ぬはめになる―。
銃声が一つ響いた。

上述した内容は、セラフィマが狙撃した一部です。
“生き地獄”を迎える瞬間を目の当たりにした場合、私ならどうしていただろう……。

「私たちが飼っているヒルは変わった習性があって、闇と温度を好む。光に晒されるのをとても嫌がるので、目の前にある穴、暖かい穴に、なんでも飛び込もうとするんだ」
柔らかい感触が耳朶を登り、耳の近くでうごめいた。
ユルゲンは叫びを上げて立ち上がろうとしたが、体が椅子に固定されいる。
「穴の中に入ると、取るのは大変だ。耳垢や鼓膜を餌と思いこんで直進するから。暖かい耳の中はヒルの天国だ。でもまあ、一匹ならいいだろ。お前の片耳が破壊され、死ぬまでヒルを体の中で飼うことになってもまだ手段はある。例えば片目を摘出するとか。(後略)」

上述した内容は、NKVDが捕虜を尋問している様子です。

死体を抱えて標的にしたセラフィマは、崩れ落ちた彼女の陰から発砲炎に狙いを定め、次の瞬間には敵に弾丸を放っていた。確かな手応えがあった。
セラフィマの盾となり頭に銃弾を受けた同士
(本文では登場人物名)は、鼻から上が崩れ落ち、もはや人相も定かではないほどに変わり果てた姿となっていた。
上述した内容は、敵からの攻撃を欺くために同志の死体を的代わりにした様子です。
死んでもなお安らかに眠ることができない現場の惨劇……。

タイトルの『同志少女よ、敵を撃て』という言葉、最後のほうに登場しました。
しかも、意外な形で……。

ドイツの死者数は約9,000,000人。
ソ連の死者数は約20,000,000人。
桁外れの戦死者数です。
何があろうと、戦争はあってはありません。

古本買取のホンマルシェ

コメント

タイトルとURLをコピーしました